~これはフィクションです~
「先生、先日お伺いした住所に行ってみたのですが、違う人が済んでいます。」
「あららっ。」
「表札が違っていて、でも、思い切って行ってみたら、…『会田正志?そんな人は知りません。私は5年程前にここに引っ越してきた。』との事でした。どうしましょう?」
「そうですか・・・困りましたね。」
「正志を除いて手続きをする訳にはいきませんか?」
「法定相続分での分割であれば、それも可能です。遺産分割協議をするのであれば、相続人全員が参加することが条件になります。」
「じゃあ法定相続分でいいです。もともと兄弟で平等に分ける事を希望してますから・・・。」
「それは可能です。しかし、問題はその先です。相続はできます。しかし、相続したご自宅を売却することができません。正志さんが取得した持分を除いて売却しても、買い手はいないでしょう。」
「それは困る。売却しなければ住む人のいない家をいつまでも管理しなくちゃあならない。誰が管理していくんだ・・・。何とかなりませんか?」
「う~ん・・・不在者財産管理人制度を使うか・・・。」
「なんですか?それは?」
「まあ読んで字のごとくですが、正志さんのように、行方知れずの人、すなわち不在者の財産を管理する人を、家庭裁判所にて選任する制度です。これにより、この方が正志さんに代わって、売買契約を締結できます。売却代金については、その後も管理人が管理していくことになります。しかし、管理人による管理は、本人が見つかるまで、もしくは管理する必要がなくなるまで続きます。家庭裁判所の監督下にあるため、定期的に報告したりする必要があります。」
「面倒な感じがしますが、他に手がないのであれば・・・。」
「失踪宣告を受けるという方法もありますが、失踪宣告がされると、正志さんは死亡したものとみなされます。したがって、不動産はお兄さんと二人で共有する形となり、正志さん抜きでも売却ができます。売却代金は二人で山分けとなります。この場合は、財産管理で長い間裁判所と付きあう必要もなく、後々の手間がありません。ただし、生きて見つかった場合に厄介になることもあります。また、死亡とみなされることから、戸籍や住民票上は死亡と処理されます。戸籍は除籍となり、住民票も除票になります。」
「戸籍がなくなるのですか?」
「まあ、そういうことになります。」
「それは・・・ちょっと・・・今はやめておきます。」
「そうおっしゃるとおもいました。では不在者財産管理人を選任する方向で進めましょう。」
なかなか兄弟愛のある方であったので、失踪宣告はしないとおもっていた。しかし、一応そういった方法もあるということを伝える必要もあった。決めるのは私ではないからだ。
見つかるといいな・・・弟さん・・・。
コメントをお書きください